熊本の中心には加藤清正が築いた熊本城がある。天守閣は明治10年の西南役で消失しているが、昭和35年に再建された。天守閣に対峙して聳(そび)える宇土櫓は幸いにも焼け残り、修復されて往時の姿を見せている。
熊本城の石垣は堀に面していない部分が多く、石垣の真下から見上げると、緻密に組まれた石の曲線が、上部にいくほど急になり、刀の反りのように美しい。天守閣には西南役の資料や、熊本の古い街並の写真が展示されている。
広い城郭の一隅に植物園があった温暖な気候のため、常緑樹が多く集められている。私はこの庭にアカンサスが植えてあるのを見つけた。
アカンサスはキツネノマゴ科ハアザミ属の大形多年草で、南ヨーロッパ原産である。薊(あざみ〕科の植物なので、葉は羽状で切れ込みが深く、1メートル以上の長さがある。中心から花穂が伸び、淡紫色の花がいくつも咲いていた。
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アカンサスの葉はヨーロッパでは図案化され、コリント式の柱頭やローマ建築の壁面装飾にされたり、銀器に用いられることが多い。英国の工芸家ウィリアム・モリスは、この葉を、壁紙や布地にデザインしている。
アカンサスaccathusの名は、ギリシャ語のアカンタ(刺・とげ)に由来している。
ピラカンサはバラ科のトキワサンザシ属の植物で、トキワサンザシのほかタチバナモドキがある。ピラカンサはピルとアカンサの複合語で、ピルはギリシャ語で赤色を示し、熟した実が赤くなるのでこの名が付けられた。
ちなみに、生きている化石魚といわれ、アフリカのコモロ諸島沖で捕獲されるシーラカンスの名は、シールとアカンサから来ており、シールは体腔や中空の意で、この魚の脊椎骨は中空の管状であり、刺状突起をもつので、シーラカンスと命名された。 |