池添 博彦さん(いけぞえ・ひろひこ)
  1941年神奈川県横須賀に生まれる。帯広畜産大学を卒業し、北海道大学農学部大学院に進む。
 現在、帯広大谷短期大学文化人類学の教授として「人間行動学」「社会環境学」「北方地誌論」「ボランティア論」などを教える。十勝古文書研究会顧問。万葉の会代表及び講師。文化人類学博士(Ph.D.)。言語学に通じ、日本及び世界の博物館、美術館巡りを愉しんでいる。
『たばこと塩の博物館』

タバコ&塩情報がぎっしり

 忠犬ハチ公の銅像で有名なJR渋谷駅を出て、交差点を渡り西武デパートの脇を抜け、なだらかな坂をNHKに向かって登っていくと、左手にパルコの店がある。その斜め前にある余り目立たない感じの4階建てのビルが「たばこと塩の博物館」である。
 道路から少し引っ込んでおり、建物の前には水が流れる造形物とシンボルモニュメントのブロンズ像「タバコを吸う人」が立っている。
 永い間、塩とタバコは専売品だったので、両者を扱う博物館が生まれたのである。1階は入口と図録や出版物、ミュージアムグッズを揃えた店がある。中2階は各国のタバコのパッケージとパイプが展示され、世界各地へのタバコの伝播が解るようになっている。
 2階は日本にタバコが伝来してから、現代までの歴史を紹介している。江戸時代は刻みタバコとキセルの時代であり、江戸期のタバコ店が室内に設けられており、乾燥させたタバコの葉を刻んで、小分けし紙包みにして売られた様子が展示されている。実際に使用したタバコ刻み機や梱包機が置かれてあり、手で触れて操作してみることができる。

 ビデオや音声ブースでは、タバコに関する情報が用意されており、あらゆる知識を得ることができる。
 3階は塩についての展示場で、塩の構造や塩と生活の関わり合いがディスプレイや実物で展示されている。万葉時代の塩の製法は藻塩焼きという方法がとられた。
 海藻に何回も潮水を注いだ後で、塩分のついた藻を焼いて粉にするか、海藻を用いて水分を蒸発させ、濃い塩水を作り、それを土器で煮詰めて塩を作った。
 瀬戸内海では入浜式塩田が昭和の初期まで行われていた。これは日差しの強い砂浜に塩水を撒(ま)いて濃縮させ、塩分を含んだ砂を集めて釜で煮出し、塩分を析出させる方法である。塩田による製塩は伊豆七島、佐渡をはじめ各地に認められたが、次第に少なくなり、現在では能登半島で小規模に行われているだけである。








外国での塩の製法

 日本では海水より塩を製造しているが、外国では岩塩を利用するところも多い。ポーランドのクラコウの南にビエレチカという塩坑があるが、ここで採られた高さ1.2m、直径80cmの円筒状の岩塩塊が展示されている。
 ビエレチカは私も訪れたことがあるが、地下100m程のところに、岩塩採掘坑が縦横に走っており、大広間の円柱や壁には彫刻やレリーフが作られていた。レリーフの後ろからライトを当てると、岩塩の褐色の結晶を通して、光が像を浮き上がらせていた。坑内のあちこちに岩塩の像が作られており、観光スポットになっている。
 雨が少なく、日照時間の多い地方では、乾期に鹹水(かんすい)湖から塩を採るところが多い。中国のトルファンの近く、海抜マイナス180mの愛丁湖がある。真夏にここを訪れたことがあるが、本来水のあるべきところは土埃(ほこり)と結晶化した塩の混じった平地しかなかった。周りには植物がなく、塩を加工してソーダを作る化学工場が一軒建っているだけだった。
 中国西域には鹹水湖が多く、塩分が結晶化して岸を埋め、遠くから見ると雪が降ったように見える湖があった。
 冬季オリンピックの行われたユタ州にはソルトレークがあり、州都の名前もこれに由来している。ユタ州にはモルモン教徒が多く、モルモンステーツの別名がある。モルモン教徒は勤勉なため、この州のモットーはindustry(勤労)であり、愛称はbeehive state(蜂の巣の州)である。
 ソルトレークは遠浅の湖で、30%近い塩分を含んでおり、イスラエルの死海と同様に、泳げない人でも水に浮くことができる。湖岸の砂や小石には塩の結晶が付着しており、泳いだ後は水を浴びないと皮膚を痛めるため、各所にシャワーが設置されていた。


嫌われ者のタバコ

 タバコはトマトやジャガイモと並んで、新大陸起源のナス科の植物である。インディアンやインディオが嗜好品として用いたものが、世界に広まったものであるが、煙として喫(す)うほかに、嗅いだり、噛んだり、嘗(な)めて味わうタバコがある。
 最近はタバコに対する風当たりが強くなっているが、日本では男性の喫煙率は下がっており、女性、特に若い女性の喫煙率が上がっている。男性は約半数が喫煙しており、女性の全国平均喫煙率は10%であるが、北海道の女性は2倍の20%がタバコを愛用している。
 タバコを喫わない者にとっては、あの煙と匂いはどうしても我慢できないものである。アレルギーの原因にもなるし、特に食事時は、せっかくおいしいものを食べていても、おいしさや愉しみが半減してしまうので、絶対に喫わないでほしいと思っている。
 煙草のほかに莨(タバコ)の文字もあるが、タバコは決して良い草(莨)ではなく、むしろ体を害する魔性の品であることを肝に銘じておいてもらいたい。



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