池添 博彦さん(いけぞえ・ひろひこ)
1941年横須賀生まれ。帯広畜産大学酪農科卒業、北海道大学大学院へ進む。現在、帯広大谷短期大学で文化人類学の教授として「食品科学」「生活科学」「人間行動学」「社会環境学」など教える。十勝古文書研究会会長。言語学に通じ、言葉の歴史を追い世界を旅する。
 
イタリア後編〜ローマ2&フィレンツェ 連載第20回

 
ローマ2

 ローマには美術館や博物館が多く、どこを訪れてもその数の多さに圧倒されてしまう。数々の作品の中で、私の好きなものはボルゲーゼ美術館にあるベルニーニの作品である。「ダヴィデ」「アポロとダフネ」「プロセルピナの略奪」はいずれも彼の作品であるが、中でも「アポロとダフネ」と「プロセルピナの略奪」はベルニーニの最高傑作といえるだろう。
 前者はアポロに追われて逃げるダフネが、樹木に変身する一瞬を捉えて彫像にしているのだが、大理石がまるで柔らかい可塑性の素材のように細密に、髪の毛や樹木の葉の一枚一枚まで細かく彫り込まれている。後者ではプロセルピナをわし掴みにしたケンタウロスの腕と手指が、プロセルピナの豊満な裸体に強く食い込み、今にも皮が破れそうに緊張した姿は、大理石という素材を少しも感じさせない程である。




 イタリアのバロックの画家にカラヴァッジョがいる。1571年にミラノに生まれ、80年代末にヴェネツィアとフィレンツェに滞在し、1593年にローマを訪れている。
 闇に浮き上がる群像を、複数のモデルを使って再現し、動きのある表現で描いている。カラヴァッジョは無頼の画家であり、同性愛者ともいわれ、喧嘩や暴力行為が絶えず、ついに殺人事件を起こしてローマから逃亡している。
 ポポロ広場の一隅にあるサンタマリア・デル・ポポロ教会には「ペテロとヨハネの殉教」があり、パンテオン西側のサンルイ・ジ・デイ・フランチェシ教会には「マタイの召令」の壁画がある。
 「ダヴィデとゴリアテ」は切り取られたゴリアテの首を持つ少年ダヴィデが描かれており、ボルゲーゼ美術館にある。「七つの慈悲」はナポリのミゼルコルディア聖堂にあるが、飢えたる者、渇いた者、旅人、裸の人、病者、獄中の人、死者の各々に対する慈悲を表した絵で、光と闇の対比の中に、天から降りる天使と7人の群像が描かれている。
 「バッカス」はウフィッツィ美術館にあり、酒の神バッカスが果物と酒瓶を前に、酒盃を手にしたもの憂い少年の姿で描かれている。





フィレンツェ

 ルネッサンスの絵を見るならば、何といってもフィレンツェだろう。歩いて回れる範囲の教会や僧院の壁画を見るだけで十分堪能できる。
 中央駅からフィレンツェの中心にあるドゥォーモ(聖母教会)までは1kmもない近い距離である。白と緑の大理石の幾何学模様のカテドラルに、高さ100mのブルネルスキーが作った円蓋が載っている。
 ドゥォーモの前には八角形の洗礼堂があり、内部はビサンティン風のモザイクで埋め尽くされている。大聖堂に面した東側の門扉は、ギベルティの聖書を主題にした10枚のレリーフからできている。北側の扉も同じくギベルティによるものなので、ブルネルスキーと争ってコンクールに勝ち、制作を任されたものである。



 アルノ河を渡ったところにあるサンタ・マリア・デル・カルミネ教会のブランカッチ礼拝堂には、マサッチォの「貢の銭」と「楽園追放」の壁画がある。「楽園追放」では、かつては裸のアダムの腰の部分が、樹の枝で覆われていたが、現在では枝葉が洗い取られている。
 裸といえば、バチカンのシスティーナ礼拝堂にある「最後の審判」でも、ミケランジェロは人々の姿を裸で描いたが、後に腰布によって覆われてしまった。
 完全な遠近法を初めて取り入れて描いたマサッチォの「三位 一体」は、中央駅前のサンタ・マリア・ノヴェラ教会にある。色大理石を組み合わせた美しい正面 ファサードをもつ教会の壁に描かれており、内陣ではギルランダイオの
「マリアと洗礼者ヨハネの生涯」が見られる。


 メディチ家礼拝堂にはミケランジェロの制作した二つの墓がある。「昼と夜」は男女の石像で表され、男性の顔は荒削りで、彫り残しが認められる。もう一つの墓には「黎明と黄昏」の寓意像が刻まれている。
 メディチ家のリッカルディ家宮殿は重厚な石造りの三層建築であり、ロレンツォ・イル・マニフィコの住居であった。二階の個人用礼拝堂には、ゴッツォーリの「三賢礼拝図」の壁画があり、三賢に擬せられたメディチ家当主の肖像が見られる。
 北側にあるサンマルコ教会の中にサンマルコ美術館がある。僧院二階の階段を登ったところに、フラ・アンジェリコの「受胎告知」が描かれている。僧房の一つ一つにもフラ・アンジェリコの聖画があり、フラ・アンジェリコ(天使の僧の意)と呼ばれた彼の、清らかで澄明な作品を堪能することができる。


●メディチ家礼拝堂の地下室。ミケランジェロの素描画。
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