池添 博彦さん(いけぞえ・ひろひこ)
1941年横須賀生まれ。帯広畜産大学酪農科卒業、北海道大学大学院へ進む。現在、帯広大谷短期大学で文化人類学の教授として「食品科学」「生活科学」「人間行動学」「社会環境学」など教える。十勝古文書研究会会長。言語学に通じ、言葉の歴史を追い世界を旅する。
カナダ 連載第17回

 カナダは10州からなり、面積では中国やアメリカよりも広い国である。国の大半が北緯50度以北に位置し、北極圏まで及んでいるが、人口は少なく、日本の4分の1程度である。
 開拓当初、東部はフランスの植民地だったので、ケベック州は今でもフランス語を話す人が多い。ケベック州を流れる川はセント・ローレンス河であるが、その仏語名はサン・ローランで、フランスの名高い婦人服メーカーと同名である。
 カナダの公用語は英語と仏語であるが、ケベック州を除くと、どこも英語が主な言語である。カナダはアメリカと異なり、黒人はそれほど多くなく、西岸のブリティッシュ・コロンビア州にはアジア系の移民が多い。また先住のカナダインディアンが各地に住んでいる。
 カナダは英連邦に属する国であるが、フランス系カナダ人の発言力も強く、ユニオンジャックが用いられていた国旗は、1965年に赤いサトウカエデの葉のデザインに変更された。サトウカエデのシロップは雪融けの頃集められ、ホットケーキやお菓子の甘味料にされる。
ヴァンクーヴァー

 ブリティッシュ・コロンビア州はカナダ西岸にあり、ヴァンクーヴァーと対岸のヴィクトリアが主な都市である。ヴァンクーヴァーは1792年にここを探査した英国の探検家に因んで名づけられた。
 細長い入江の入口に突き出た半島がダウンタウンで、先端のスタンレイパークには、鬱蒼(うっそう)とした林の中に動物園と水族館が並んでいる。水族館では、大型のシャチの曲芸が面白かった。
 裁判所を見学にいった。ファミリーコート(家庭裁判所)は離婚訴訟で、別れる妻が子どもの引き取りと、養育費の請求をしていた。次の部屋は被告が窃盗犯のイヌイット(エスキモー)であり、英語とイヌイットの通訳がおり「酒を何杯呑んだのか」とか「所持していた200ドルはお前のものか」などと訊いていた。

●友人のプールにて
(ヴァンクーヴァー)
 
 ユニークなものにトラフィック・コート(交通裁判所)があり、車で人を轢いた事件の裁判をしていた。ガラスに包まれたドームの中には幾つかの裁判所があり、植木や植物が配置され、市民の憩う公園といった感じの施設である。通路に向いたドアを開け放った場所で裁判が行われていた。日本の閉鎖的な堅いイメージの裁判とは、全く異なっている。


●ヴィクトリアの議事堂
ヴィクトリア

 バスでヴァンクーヴァー島の主都ヴィクトリアに出かけた。途中バスごとフェリーに載って、4時間余りでヴィクトリアに着く。ヴィクトリアには州議事堂があり、伝統的なイギリスの雰囲気をもつ建物が多い。
 ロンドンと同じスタイルの二階建てバスに乗り、市内を見物した後、ブッチャード・ガーデンを見にいった。元はセメント工場の石灰採掘場だった処を埋め戻して、各種の庭園にしたもので、フランス、イタリア、ドイツ庭園、それに中国、日本の庭園が造られ、春から初夏の頃は、あらゆる花が咲き乱れて美しい。
 日本庭園には梅、松、竹、楓、八ツ手、水蓮があり、日本の情緒を伝えている。このほか、ブリティッシュ・コロンビア大学の中にも、新渡戸稲造を記念した日本庭園がある。
●アサバスカ河の滝

●アサバスカ氷河

カナディアン・ロッキー

 アメリカより北に伸びたロッキー山脈のカナダ側には、緯度の関係で氷河が多く見られる。中でもアルバータ州のジャスパーから国道93号をバンフに下るルートは、数多い氷河を次々とみることができ、そのスケールの大きさに圧倒されてしまう。
 ジャスパーでは2464mのウィスラー山に登って、アサバスカ河の流域とジャスパーの町を一望した後、マリーニュ・キャニオンを訪れた。60mもの崖の間を、滝を作って大量の河水が流れ落ちていく。両岸は極端に狭く、数mの幅であり、水で浸蝕されたキャニオンの下に、迸(ほとばし)る流水が見えて壮観である。
 バンフに向かうバスでは、左右に氷河が現れるが、中でも最大のアサバスカ氷河に寄ってみた。厚い処は1000mにもなる氷の上を、キャタピラのスノーバスが走っていく。氷の上は細かな縦筋がいくつも入り、処々に深いクレバスができている。氷は碧(あお)く透き通っており、水を掬(すく)って飲むと、喉に心地良く沁み渡った。
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