道具として使ってほしい、バンブーロッド
連載第28回
●橋本直紀さん。自宅工房にて。 


●制作中の竹ざお。糸を通す輪以外は金属部分含めすべて手作りだ。ここに、家業の金属加工の技術も生かされている。



●竹ざおの状態を確認する橋本さん。曲がりがある場合は、熱を加え手でしごきながら、まっすぐに伸ばす。1本が完成するまで、1日10時間手をかけても、20日間かかる。「中断できない作業が多いので、作り出したら何時間でも作り続ける」。

 
●竹は強度のある中国産の「トンキンケン」という種類のものを使う。天然素材のため、硬軟や乾燥具合はさまざま。その都度、経験に裏打ちされた対応が必要となる。

 
●工房にある熱を加える機械。筒の中に竹を入れると、遠赤外線が竹の中央部から熱し、素材をより堅く締まったものに仕上げる。中の竹に熱は加えるが、断熱材入りなので表面は熱くないように作られている。


●本当に堅い、いい部分しか使わないため、素材は半分近く削り落とされる。1本のさおは、三角柱に削った棒状の竹を6本貼り合わせて、六角形に接着して作る。

橋本 直紀さん
バンブーロッドビルダー


はしもと なおき 1969年4月、大阪府東大阪市生まれ。高校卒業後、家業の装飾金物の製作に携わる。幼少の頃から釣りにはよく行っており、道具づくりもした。高校時代から釣り具屋さんでアルバイトを始め、釣り全般の知識を得る。92年釣具屋さんからのすすめで、バンブーロッド(竹ざお)を作り出し、7〜8年前より本格的に販売を開始。専業となる。2001年の12月に釣り場として最高のコンディションを持つ十勝へ移り、バンブーロッドを製作中。河東郡音更町で工房N.A.Craft主宰。33歳。

N.A Craft TEL 0155-30-3454



 橋本さんの作るバンブーロッドは現在、注文を受けてから作る完全予約制。1本を作り上げるために要する時間は、トータルで約200時間にも及ぶ。手間のかかる仕事だが、「やるほどに奥が深い」という。趣味で作っている人は多いが、「バンブーロッドビルダー」を職にしている人は、全国でも数人。仕事として始めるまでの経緯、十勝へ来た理由、今後の展望などについてうかがった。

バイト先からすすめられて

 16歳の頃から釣具店でアルバイトを始め、釣りの知識を得た。子どもの頃、釣りにはよく行ったが、釣りそのものより、釣り竿などの道具を作っては試すことが好きだった。もともと父親は装飾金物を作る職人。高校卒業後は、橋本さんも父親のもとでドアのハンドル部分などの製造販売に携わる。本職が手仕事だったためか、バイト先の釣具店から「バンブーロッド(竹ざお)を作ってみないか」と持ちかけられた。10年前のことだ。

中途半端から専業へ

 幸運にも、橋本さんの「竹ざお」を買ってくれるお客さんはすぐ近くにいた。本業と竹ざおづくりのバイト。そのうち何だか中途半端な気がしてきて、ちょうど仕事量も半々のような形になってきた7〜8年前、竹ざおづくりの方に本腰を入れる覚悟を決めた。「高価な竹ざおを片手間に作ることは、買ってもらう人にも失礼だと感じた」。そんなひとことにも職人としての自覚が見え隠れする。
 
釣りのメッカ「十勝」

 ターゲットとなるニジマス、ヤマメ、イワナなどの魚が元気で豊富な渓流が多く、自分が作った竹ざおをすぐに試せる自然環境を持つ十勝。「釣り場は、ここからほんの10分のところにもある。本州では、さおの状態の結果 を出すのに1年かかるところ、十勝なら1時間で済む」と橋本さん。十勝へ移り住んできた一番の理由はそこにある。また、竹ざおは高額なため、そのものを「ステイタス」として持つ傾向も持つが、橋本さんは「自分の作った竹ざおは、ぜひ、渓流釣りで使ってほしい」と力を込める。実際、北海道は釣り人口が多く、竹ざおを実用的に使う人も多い。その点も魅力のひとつだった。
 
バンブーロッドの製作過程

 材料は中国産の「トンキンケン」という竹を使う。「日本の竹とは異なり、折れにくく、強度のある竹」と橋本さんは説明する。節部分の外側はそぎ落とし、節を生かしてそのまま使うため、強度も保たれる。竹を三角柱の棒状に加工し、6本を専用ボンドで貼り合わせて、ちょうど鉛筆の六角形を作るように整形する。さおが細くても同様の工程で、より細かい作業が必要となる。

天然素材の難しさ

 天然の素材はそのものに温もりや味わいがある。しかし一方で、加工泣かせでもある。夏と冬では乾燥状態が違う。木の硬軟もそれぞれに違う。「素材に聞いてみながらの作業になる」と橋本さん。機械で行えば100本できるところ、1本しか作れない。効率化を求めるなら、いわば逆行した作業。「作れば作るほど、奥の深さがわかる」。一般的には数十万円する竹ざおだが、橋本さんの作る竹ざおは、長さ、厚みによって値段は違ってくるものの「10万円程度」と手の届く範囲にある。そこにも「実際に使ってほしい」との思いが込められている。

※手に入れたい場合は、直接問い合わせるか(N.A Craft TEL 0155-30-3454)、卸している釣り具店(Crazy Fisher 河東郡音更町木野大通東7-1-4 TEL 0155-30-4636)まで。

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