乳用牛オーナーへ「食」情報を発信
連載第27回
●乳用牛オーナー制度を始めた山中幸江さん。


●放牧され、好きな時間に好きなように草をはむ約60頭の牛たち。ストレスが少ない健康牛から出る牛乳は、季節ごとに味わいが違い、それぞれにおいしい。夏はすっきりとした口当たり。

 
●自家製のゴマアイスクリーム。すりゴマたっぷりで香ばしく、口溶けやさしいミルキーな味わい。

 
●「えさ、ちょうだい〜」とおねだりする黒豚。人なつこくてかわいいが、肉用とのこと。「命に感謝しながら、いただきます」。

 
●卵を産む烏骨鶏。

 
●休憩もできる宿泊所のゲストハウス。素泊まり一人500円。

 
●自炊できるキッチン、バス、トイレ、洗濯機付き。入り口やトイレは車イス対応。乾燥機も備えている。


山中 幸江さん
山中牧場 代表


やまなか・さちえ 1953年大阪市生まれ。北海道に興味を持ち大阪で行われた集団見合いに参加、酪農と畑作を営むだんなさんと出会い、79年北海道へ。酪農に従事しながら、徐々に勉強会などに参加して学び、食に関しての考えを固める。「自分が作った健康的な牛乳を飲んでほしい」との思いから、可能なシステムを探る。
  昨年「乳用牛オーナー制度」の準備を進め、2002年5月より正式に立ち上げた。現在、地元十勝にオーナー数組を持つ。オーナー登録者からの予約で宿泊可能な施設を備え、有機農法で育てた野菜の販売も行う。
  16歳〜22歳の4人の娘は千葉、釧路、更別、帯広市内に住む。農業のサポート会社を営む夫、祖父母と帯広市美栄町に暮らす。近々、ホームページ完成予定。

●山中牧場
 帯広市美栄町
 TEL 0155-64-4775



 山中さんは結婚を機に酪農の仕事を始めた。結婚当初も放牧をしていたが、牛の脱走が続き結婚後1〜2年で一時放牧をやめることに。その後、農家内での勉強会を重ね、ニュージーランドの放牧の仕組みなどを学び、牛の精神状態が安定して健康なお乳を出してくれるという「放牧の効果 」を再認識。1989年から再び放牧を始める。現在約60頭の牛を放牧し、乳用牛のオーナー制度を実施。その制度を立ち上げるまでの話と、制度の仕組み、牧場での楽しみ方などをうかがった。

直接牛乳は売れない

 自分が作る牛乳を売りたい…これは酪農家の誰もが思うこと。でも実際には保健所の検査をクリアしなければならず、なかなか困難だ。そこで、山中さんは北海道深川市の酪農家が実践している「乳用牛のオーナー制度」に注目した。
  一家族一口5万円の出資金で、子牛のオーナーになってもらう。廃用牛になった時点で出資金は返還する。オーナー期間中は自由に牧場に来て、牛乳(1回1リットル)を持ち帰れる。保健所に相談したら「その子牛はオーナーさんのものですから、自由にしてもらってかまわない」との返答を得て、今年5月本格的にスタートを切った。

世界一の牛乳を目指して

 ここの牛のエサは放牧の間に食べる青草がメイン。不足分を補うために配合飼料を多少混ぜて与えている。
  「基本に立ち戻って好きな草を食べさせれば、牛のストレスも減って健康的なお乳を飲んでもらえると思った」と山中さん。市販の牛乳はたいてい殺菌をしているが、ここでは搾りたての牛乳をあくまでも無殺菌で出している。「世界でも一番おいしいと思って、オーナーに提供しています」と笑顔で語る。
 
オーナーの特権

 搾りたての牛乳を味わえるのはオーナーの特権。ただ子牛のオーナーになってもらってから、その子牛が乳を出せるように成長するまで、2年ほどかかってしまう。2年後から搾りたての牛乳がもらえる仕組みだが、待てない方には「前倒し」で牛乳を提供している。1回1リットルで200円。この搾りたての牛乳で作った自家製のアイスクリームも120円で分けており、すりゴマがたっぷり入っていてミルキーな味わいと好評だ。
 
宿泊施設も

 昨年、宿泊できるゲストハウスを作ろうとプレハブを購入。オーナーからの予約で基本的には素泊まりの自炊形式。一泊500円。牧場内には牛のほか、人なつこい黒豚や卵を産む烏骨鶏(うこっけい)などもいて自由に触れあえる。青々とした牧草地の中でランチを食べるのも楽しそうだ。また、ここでは堆肥だけを使った有機農法による野菜も販売している。
  「思い思いの過ごし方をしてもらえたら、いいですね。入り口にスロープを設け、車イス対応のトイレも用意していますから、体が不自由な方にもぜひ来てもらいたいです」。手話を習った経験を持つ山中さんの、思いやりが感じられるバリアフリーな造りだ。

交流の場に

 酪農家と一般の人の交流の場として、ここからいろいろな情報を発信していきたいと語る山中さん。そのためにももっとオーナーを増やしたいという。「放牧でお腹いっぱい草を食べた牛の乳は、殺菌しなくても腐らないし、振っているだけでヨーグルトができるが、一般 の人は知らない。ゆっくりしてもらいながら、酪農や食のことを知るきっかけになれば」。交流の中で今注目される「スローフード」の体験もできそうだ。オーナーの募集は随時、行っている。


 

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