安全で美味な肉と蕎麦を手間ひま惜しまず直販
連載第27回
●「いつかは、農場まで来てもらった人も買い求められるよう、ショップを作りたいですね」と古川行孝さん。

 
●ホームページでは、こだわりの牛肉・豚肉のほか、蕎麦を買い求められる。

 
●「アップル黒毛和牛」「アップル特選霜降り和牛」と名づけた和牛。肉は約1カ月ほど熟成させてから出荷となる。そのため、多少値段ははるが、旨味が増すと評判だ。特選すき焼きロース (250g)2500〜3000円、特選しゃぶしゃぶ・牛丼用バラ肉 (250g)1380〜1750円、黒毛和牛100%ハンバーグ (150g 1枚)300円など。

 
●2町5反の畑で蕎麦を無農薬で栽培。蕎麦は雑草にも強く栽培しやすいが、何より「自分が好きだから」。これから雑穀にも挑戦したいそう。蕎麦の粉は大樹町の特産センターでも販売中。ネットでは1kg1000円、粒は300g400円。

 
●今年に入ってから羊15頭を飼い、子羊が15頭生まれた。今後、羊の出荷もしていく。

 
●草原を走り回る健康な「アップル草原ポーク」。舌の上でとろけるあっさりとした脂が特徴。ローススライス(塩焼き、すき焼き)約300g690円、ウインナーソーセージ約6本入り450円。


古川 行孝さん
北海とかち農園

ふるかわ・ゆきたか 1959年東京都生まれ。小学5年生のときに千葉県へ。流山高校園芸科卒業後、会社勤めを経て、長野県や北海道で農業、酪農を経験、競馬用の馬の育成などの仕事につく。札幌市では新規就農希望の登録を支援センターに申請、資金集めのためトラックの運転手をする。92年十勝にも支援体制があることを教えられ、足寄町へ。その時ちょうど支援センターを立ち上げた大樹町からの紹介で、町営牧場での研修を開始。実習を終えた94年から尾田地区の離農跡で、蕎麦づくりと肉牛飼育を本格的にスタート。2001年秋には「北海とかち農園」の名でホームページを開設、直販を始める。現在、妻、9歳・2歳の女の子2人とともに暮らす。

●北海とかち農園
 北海道広尾郡大樹町字尾田258-1
 TEL 01558-9-7700
 FAX 01558-9-7701
 URL http://www.h-t.jp/



 千葉県に移ってからは自然に恵まれた環境で育ち、中学時には「田舎で暮らしたい」と考えるようになった古川さん。さまざまな職種を経験しながらも農業に憧れ、札幌にいたときに結婚した幼なじみの奥様とともに、大樹町で牛・羊・豚を飼い、蕎麦を作りながら生計を立てている。家畜はエサから試行錯誤を重ね、質のいい肉を作る努力を惜しまない。「自分で育て、自分で売りたい」と思い、ホームページ上での直販を展開。そのこだわりの農畜産物との格闘ぶりをうかがった。

質の高い肉への挑戦

 松阪牛などに代表されるブランドの霜降り肉。脂肪分の「サシ」は、ある程度遺伝で決まってくるため、どうしても「いい種牛」を手に入れなければならない。しかし、血統の確かな牛は一般 の牛の2頭分の値段となる。思い悩んでいた5年前、東京の食肉市場の専務の講演で「サシの入り方は血統によるところが大きいが、旨味となる脂の質はエサによって変わる」という話を聞き、エサの研究をすれば「うまい肉」を作ることが可能なことがわかった。「当初はエサといっても、どうしたらいいか手探りでした」と古川さん。質の高い肉を追求して、エサの開発が始まった。

自家製配合飼料

 ここの牛のエサには、大麦やトウモロコシを主原料とした「自家配合飼料」に、青森県産リンゴサイレージ、十勝産ジャガイモサイレージ、酒粕、ニンニク、ハチミツ、ビール酵母、ゼオライト、ホタテカルシウムを独自の配合で混ぜたものを使用。「リンゴのしぼりかすを発酵させたサイレージを使っているのが一番のポイント」と古川さん。リンゴに含まれるペクチンが整腸作用を促し、ビタミンの吸収率をアップ、内臓を元気にしてくれる。一方豚にも、リンゴやジャガイモのサイレージをベースにアレンジしたエサを与えており、抗生物質・ホルモン剤はもちろん、肉骨粉など動物由来のエサは一切不使用。牛も豚も健康そのものだ。
 
最高級の牛肉

 5年に及ぶエサの研究の成果が出たのか、このほど出荷した牛肉の検査で、最高級の肉質の評価を受けた。 「5等級の中でも、ごく一部しか出ないクラスの肉だった」と本人も驚く。市場に出しても北海道では扱ってくれるところがないため、2001年秋から始めたネット直販を利用して、「自分で販売」することに。現在もなお販売中で売り切れ必至だが、まだまだ注文を受け付けている。「値段はふだん出している上物の値と一緒」とのことで、牛肉好きには文字通 り「垂涎の品」となりそうだ。
 
小規模農業を実践

 2001年9月にパソコンと出合い、知人を通じて「北海とかち農園」の名でホームページを立ち上げた。1999年頃から牛の枝肉の価格が落ち込み、2001年のBSE問題をきっかけに市場での価格は急落、質に関係なくみな同じ扱いを受ける。「生産者の自分が自分で売らなければ」との思いを強め、今年の春に直販を始めた。昨年からは牛よりも早く育つ豚を飼い、生産性を高めている。牛12頭、豚10頭、数ヶ月前から羊30頭も飼う。就農するまでに遠回りした答えは、手間を惜しまない、質の高い小規模農業。「新規に農業をしたい人も、小規模なら可能だと思うんです」とこれから農業を志す人にエールを送る。


 

バックナンバー  

Copyright (C)Press Work 2002 All Right Reserved.