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「人」と「形」の間に存在するもの -近況からー

                                                             伽井丹彌

 拝啓。すっかりご無沙汰しております。気が付けば今年も後わずかになりましたね。今年は私自身にとっても世紀末に相応しい節目の年になりそうです。実は昨日、私にとってとても大きなイベントが終了したんです。
 その大イベントというのはね、今年の8月18日から11月29日まで北海道帯広美術館のコレクション・ギャラリーで行われた「十勝の新時代Ⅲ伽井丹彌展」の事なんです。色々あれこれ戸惑いながらも、多くの人の協力のおかげで開催する事ができました。そうそう、今回とても素敵な図録を作っていただいたんです。綺麗な写真をお見せできないのが残念ですが、その中の挨拶文をお伝えしたいと思います。少し長くなりますけど…。

 「十勝の新時代Ⅲ 伽井丹彌展」を開催致します。
 本展は、現在および今後の活躍が期待される十勝ゆかりの作家に着目し、個展形式でその制作活動の現況を 紹介するシリーズ展「十勝の新時代」の第3回展です。今回は帯広市在住の造形作家伽井丹彌の創作人形を紹介します。帯広生まれの伽井丹彌は、日本を代表する人形作家四谷シモンに短期間師事したのち積極的な 作品制作を展開、また舞踏家としても活動を続けています。その作品は球状の関節構造によって人体の動きを再現した1メートルを超える大型の創作人形です。確固ととした存在感や精巧な構造を示す一方で人形特有とも言える豊かな象徴性や生命感を含み、従来の彫刻や工芸の枠ではとらえきれない独自の造形性を現出しています。今回の展覧会では1990年の[人形譚-紅-]から最新作まで11作品によってその表現世界を紹介します。また展覧会と併せ会期中会場内で関連事業「アート・パフォーマンス」を開催し、舞踏家としての活動の一端も紹介します。

と、いう事です。あえて原文のままお伝えしました。これってなかなかすごいでしょ。人形のみならず踊りまでやってしまいましたの。思えば、10年前120センチメートル弱の人形を作り始めたきっかけは、いつか自分の人形の中で踊りたいという夢があったからでした。今までも自作の踊りは常に人形をテーマにしてきましたが、ここまで具体的に人形と空間を共有するのは初めての事です。夢の実現が嬉しくて、あれもこれもやりたくなってしまい少し詰め込み過ぎてしまいました。
 人形についても、色々初めての事がありました。それは、個々の人形に題名をつけた事と、あらかじめ展示する空間を意識したうえで人形を作ったということです。今まで人形の作品に題名をつけなかったのは、できるだけ人形のイメージを限定したくなかったからです。何故なら、人形はどんどん変化していくものだから。首の角度や置かれた場所や、人の想いで様々に表情を変えていくもの、対峙する人の「鏡」として、そっとそこにいて欲しいという願いがあったからです。 人形は「人」の形。人と形。「人」と「形」の間に存在するもの。もとから血も肉もありはしないのに、肌の質感や血管が透けて見える事にこだわっていたのは、目に見える形の領域で「人」に少しでも近づけたくて。もとより、人形の身体は内臓もないがらんどうなのだけれど。その空洞に目には見えない、訳のわからない感情のようなものが、さもあるかのように、まるで動き出しそうに、生きているかのようにそこに存在する物体。唯心を感じてもらえたならという、とてもだいそれた願いがあるんです。
 少し、話がそれてしまいました。今回の展示方法を決めた上で作った人形は、最終的に見せたいポーズのイメージから入りました。これは、踊りの作品を作るときの感覚と少し似ています。もとより可動可能な球体関節ですが動きを限定する事で、より「人」の動きに近づいて、それとは逆に人形がどんどん「モノ」に見えてくるという不思議な感覚がありました。人形が人形であるために、虚像であって欲しい。今までの「人」に近づいていた思いが、今またすこしずつ「形」に戻りつつあるのかも知れません。
 何だか訳の解らない話が続いてしまってごめんなさい。
 虚像といえば、この間のパフォーマンス「人形遊戯」も虚像と実像がテーマでした。人形の中で踊るという事。人形と私。私自身を虚像の人形に近づけたいと思いました。蝋燭とプロジェクターの光の効果でスクリーンに浮かび上がる私の影や映像は、実像の私よりも、より生々しくそこに存在していました。もとより人前で踊るという事は、虚像を作り上げているように思います。
 踊りの話をするとまた長くなりそうです。そろそろ夜も開けて来ました。明日は人形たちが家に帰って来ます。お部屋の掃除や楽しい宴会の準備があるのでこのくらいにしておきますね。これからもひたすら夢中に、訳のわからない事をやり続けて行くと思います。また色々と話を聞いて下さいね。それでは、ごきげんよう。

                                            (美術ペン102  2000WINTER )


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